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東京高等裁判所 昭和53年(う)2007号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人大石隆久、同村松良が連名で差し出した控訴趣意書に記載してあるとおりであるから、これを引用し、これに対して当裁判所は、次のように判断する。

一、二〈省略〉

三、同第二(法令の解釈適用の誤りの主張)について

所論は、原判決は被告人の内田初雄ほか七五名に対する本件弁当類の各供与を包括一罪と認定しているが、公職選挙法二二一条一項一号の解釈上右の各所為は刑法四五条の併合罪の関係にあるものであるから原判決は右各法令の解釈適用及び罪数認定を誤つている、として縷々主張している。

しかしながら、所論は、包括一罪として認定された所為を併合罪にあたると主張するものであつて、自己の利益のためにのみ上訴をすることができるとされている被告人のための控訴において、被告人のために不利益な変更を求めることに帰し、いま所論に従い右各供与について併合罪の処理をすると、被告人の刑責は、包括一罪として処理したときに比して重くなるのであるから、論旨は被告人にとつて不利益な主張をすることに帰し、到底許されるべきものではない(昭和二九年一〇月一九日最高裁第三小法廷決定刑集八巻一〇号一五九六頁、なお昭和三〇年二月一〇日最高裁第一小法廷決定刑集九巻二号二六〇頁参照)。(所論にかんがみ、被告人の原判示第五の供与罪の罪数を考えるに、原判決認定の事実関係のもとにおいて、被告人は、他二名の者と共謀のうえ、本件選挙に立候補した糸山英太郎に当選を得させる目的で、昭和四九年六月二四日原判示の個人演説会に参加させるため、貸切バス二台に乗車した、同一住居地区たる引佐町関係の選挙人内田初雄ほか七五名に対し、同一の犯意に基づき、同車内で原判示の弁当等を一斉に供与した、というのであるから、これを各受供与者毎に成立する別個の併合罪の関係とせず、包括一罪をもつて論ずべきものであるとした原判決は相当である。)

以上の理由により刑訴法三九六条により本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(向井哲次郎 山木寛 中川隆司)

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